宇宙航空研究開発機構

突撃!きずな実験レポート 第29回(2016.03.15)

第29回目は情報通信研究機構(NICT)の秋岡様に「きずな」利用や地球局についてお話を伺いました。

うちあげから8年、いろんなところでいろんな使われ方をしています。

国立研究開発法人 情報通信研究機構 ワイヤレスネットワーク研究所 企画室 専門推進員 秋岡 眞樹(あきおか まき)
国立研究開発法人
情報通信研究機構
ワイヤレスネットワーク研究所 企画室
専門推進員
秋岡 眞樹
秋岡 眞樹(あきおか まき)
京都大学大学院理学研究科博士課程宇宙物理学専攻修了後、京都大学等の非常勤講師や科学技術庁科学技術特別研究員を経て平成5年に郵政省通信総合研究所(現情報通信研究機構)に就職。以後、太陽や宇宙環境観測、小型衛星の開発、宇宙通信システムなどの仕事をしてきました。

 「きずな」の打ち上げから8年が経過しましたが、今まで携わってきた運用の中で特に印象に残っているものはなんですか。

『やはり東日本大震災でしょうか。衛星通信の威力を実感しました。』

5年前の3月11日の東日本大震災の折、東京消防庁からの要請で緊急消防援助隊東京都隊に同行して、気仙沼市に行きました。3月14日に、大手町の東京消防庁を消防車で出発し、15日の午後にはTV会議や電話会議などで、現地と東京消防庁作戦室の間で話ができるようにしました。その後、航空幕僚監部からの要請で、航空自衛隊松島基地に移動し、入間基地との間に回線をつなぎました。松島基地では、基地の業務隊の方々が毎日大容量のデータを市ヶ谷の防衛省に送るなど、超高速インターネット衛星らしい使われ方でした。基地の様々な装備や施設の被害状況のデータも含まれていたようです。この時に一緒に仕事をさせていただいた消防や自衛隊の方々とは、今も訓練や実験などを一緒にさせていただいています。消防総監からの感謝状や航空幕僚長からの表彰状などをいただきました。電源さえ確保すれば一発でつながる衛星通信の威力をつくづく感じました。



震災時の気仙沼市災対本部の様子



 現在、NICT殿が取り組んでいるきずな実験はどのようなものですか。

『自動車や船、飛行機からの高速衛星通信の基礎的な技術開発などです。』

 光ファイバーをつかって会社や家庭のブロードバンドはあたりまえになりました。動き回りながらの携帯電話も、街中ではなくてはならないインフラです。次の目標は、自動車や飛行機、船や洋上などの移動体通信をブロードバンド化する事でしょう。走行中の車両や航行中の船舶に加え、飛行中の航空機からの高速データ伝送実験も成功させています。船舶との通信だけではなく、海中の無人探査機の遠隔操作実験を成功させ、洋上中継機とのブロードバンド通信の実現に取り組んでいます。



 現在、NICT殿が取り組んでいる災害対応(訓練)ではどのような活動をされていますか。

『東日本大震災の経験も踏まえて開発したフルオート可搬局や小型車載局を使って全国各地にでかけて防災訓練などに参加しています。』

 東日本大震災の際に、緊急消防援助隊や航空自衛隊と一緒に行動しましたが、行動途上での通信の重要性を痛感しました。そこで、走りながら通信ができる小型車載局や、小型車載局をゲートウエイにして車車間通信を組み合わせる事により移動中の車列に衛星通信資源を提供する技術などの開発をしています。開発したシステムを使って、全国の自治体などの防災訓練に担当者は飛び回っていて、防災訓練のシーズンにはあちこちから呼ばれてほとんど休む暇がない状況です。


 NICT殿が開発したきずな地球局について教えてください。

『フットワークの良い地球局をいろいろ開発しています。』

 衛星通信の地球局は、建物の屋上や鉄塔にがっちり取り付けられたパラボラアンテナが思い浮かびます。衛星携帯電話も、衛星の方向が開けた場所で衛星の方に向けておかないとつながりにくかったりします。NICTの開発したきずな地球局は、打ち上げ当初から活躍している大型車載局をはじめ、フットワークが良いです。東日本大震災で被災地に行った時の経験から開発した小型車載局は、ワンボックスカーの天井にクルクルと素早く衛星を追尾するアンテナを載せていて、ハイビジョン画像をリアルタイムで送りながら走り回ることができます。航空機用の地球局も開発し、51Mbpsでアップリンクできますので、NICTの開発したPi―SAR2(分解能30センチ!の合成開口レーダ)の膨大なデータ伝送もリアルタイムでこなします。航空機用の地球局は、航空自衛隊も強い関心を持っていて、2016年1月の飛行実験の際には、航空自衛隊にも実験機会を提供し、航空自衛隊の実験装置を持ち込んで実験してもらっています。



小型車載地球局(左)と大型車載地球局(右)


 「きずな」での実験成果を踏まえ、通信衛星の今後の展望をお聞かせ下さい。

『電波と光を組み合わせた新しい超高速衛星通信ネットワークが現実のものになると思います。』

 「きずな」は、3GHzを越える回線を実現するなど、衛星通信の高速化で世界の最先端を走り抜けようとしています。ある程度以上の速度が安定的に得られると、地上のインターネット機器をそのままストレスなく衛星通信に持ち込む事ができ、それにより飛躍的に衛星通信の応用が広がります。さらなる高速化の為に、光を使った衛星通信も実現しつつあります。地上の光ファイバーネットワークではなかなか難しい即応性や孤立した洋上や航空機などにおける移動体通信など、衛星通信はますます重要かつ使いやすいものになっていくと思います。