宇宙航空研究開発機構

突撃!きずな実験レポート 第27回(2015.03.05)

第27回目は「きずな」を使った社会化実験の利用推進に取り組んでいる、スカパーJSAT株式会社の熊田様にお話を伺いました。

「きずな」民間利用社会化実験を通じて

スカパーJSAT株式会社 宇宙・防衛事業部 アシスタントマネージャー 熊田 京子
スカパーJSAT株式会社
宇宙・防衛事業部
アシスタントマネージャー
熊田 京子
熊田 京子(くまた きょうこ)
1992年      入社

 「きずな」社会化実験では主にどのような実験が行われましたか。また、全体を通してどのような成果が得られましたか。

『長期インターネット環境の提供、短期では機器接続検証実験、遠隔医療実験等を行いました。イベントにも利用されました。』

 日本の最南端に位置する南鳥島と、定期運航フェリー「さんふらわあ きりしま」へ、長期にわたるインターネット環境を提供しました。その他、地上回線では実用化されていますが衛星回線を使用しての実績がなかった機器について、実際に「きずな」衛星回線を通しての技術実証を通じて機器の有効性を検証いただいたり、大学の医療実験や、製菓会社様の七夕イベントにもご利用いただきました。ご利用いただいた企業様のプレスリリース等を通じて「きずな」と企業様、双方のアピールにつながったと考えています。また、遠隔医療実験を通して、通信インフラが整備されていない地域や災害時における衛星の有用性が改めて確認されたと思います。
 特に災害時、地上回線が寸断された状態での情報共有には衛星回線が有効です。衛星に、クラウドとタブレット端末を組み合わせれば、複数拠点での情報共有が可能となり、非常に有効であることも確認されました。



 南鳥島に「きずな」地球局を設置し、インターネット環境を提供しました。利用者の反応はいかがでしたでしょうか。

『「きずな」回線が非常に大切であることが、日々の運用を通して実感されました。』

 「絶海の孤島」と言われる南鳥島は、究極のデジタルデバイド地域です。
 「きずな」導入以前は通信手段の確保がままならず、インターネットも携帯も通じるのが当たり前である生活からは比べものにならないほど不便であったと想像されます。
 社会化実験で「きずな」を常時接続していただいたことにより、内地との情報のリアルタイム共有が可能となり、業務が効率化されたとお伺いしており、離島における衛星回線の有用性を強く感じていただけたのではないかと思っています。
 一方で、「きずな」機器は衛星回線接続時と終了時に、有人での作業とHUB局との連絡が必須となっていますが、機器が島内の宿舎から少々離れているところに設置されているため、都度の作業が大変であるとお伺いしました。作業が少なくて済むご利用スケジュールを組むよう心がけましたが、突発的な不具合時にはどうしてもご迷惑をおかけしてしまいました。機器の無人運用や遠隔操作ができるようになると、より便利だというご意見をいただいています。
 南鳥島は「きずな」機器に不具合が起こっても容易に修理に行ける場所ではないため、小さなトラブルには島内の方に対処いただくこともありましたが、その臨機応変さに感謝しております。



南鳥島に設置した「きずな」地球局


 定期運航中のフェリー「さんふらわあ きりしま」に「きずな」地球局を設置し、インターネット環境を提供しました。洋上での「きずな」回線利用は有効であったと考えますか。

『乗客向けサービスとしてだけでなく、乗組員の方の福利厚生にも大きく役立ったと思っています。』

 「さんふらわあ きりしま」では、「きずな」を経由して、船上での無線LANを使用した船内ネットを構築し、航海中の船舶から手軽にインターネットが出来る環境を長期的に提供していました。
 フェリーは、いったん洋上に出てしまうとスマートフォンも携帯もインターネットも使えなくなってしまうことから、こうした環境を整備することは、乗船されるお客様にとってのサービスとなるだけでなく、乗組員の方の福利厚生に大きく役立ったと思っています。しかも「きずな」回線は帯域が広いため、洋上ブロードバンドの利便性をよりいっそう、乗客・乗員の方に感じていただけたと思います。
 一方で南鳥島と同様、「きずな」機器は衛星回線接続時と終了時に、有人での作業とHUB局との連絡が必須となっています。出航後は乗員の方も別の作業でお忙しいため、接続できる機会は出航前の僅かな慌ただしい時間となってしまい、大変であったと思います。



さんふらわあ「きりしま」


「きりしま」に搭載した船舶実験局




 2014年7月には「きずな」回線を利用して七夕メール実験が行われましたが、反響はいかがでしたでしょうか?

『「きずな」を通して5,000件を超えるお願い事を、宇宙に届けました。』

 栗山米菓様の「ばかうけ」「星たべよ」の七夕イベントで、「きずな」をご利用いただきました。スペシャルパッケージやインターネットを通じて告知が行われ、消費者の方からの七夕のお願い事を集め、7月7日の七夕の日に、「きずな」を通して宇宙に願いを届けました。
 本イベントについては、インターネットでも、宇宙好き、お菓子好き、それぞれの方々が話題にしてくださいました。お願い事は5,000件を超え、「宇宙」とコラボした夢のあるイベントに関心を持ってくださった方の多さを実感しました。



栗山米菓様「星たべよ」スペシャルパッケージ


 2014年10月には「きずな」回線を利用して農場や漁場向けIoT検証実験が行われましたが、どのような成果がありましたか。
また、通信衛星を利用して山間部や海上といった場所からセンサデータ等を伝送することについて、今後どのような用途があると考えますか。

『農場や漁場という、新たな分野における衛星の用途を発見できました。』

 「IoT(Internet of Things)」は、“世の中に存在する様々なモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり、相互に通信することで自動認識や自動制御、遠隔計測などを行う”ことなのですが、そのIoTに衛星通信も有効活用できることが確認できました。特に、インターネット環境を利用しづらい農場や漁場においては、場所を問わない柔軟性のある衛星通信とつなぐことが有用であると考えられ、今後の新たなマーケットになり得ると考えます。
 人が行きづらい山間部の農場や海上でも、衛星を経由してセンサーで様々なデータを収集することができれば、より効率的な生産計画や漁獲計画を立てたり、関係者間で情報共有に役立てることができるようになると思います。
 センサデータは小容量のため、細い回線でも送信することができます。データ従量課金型の衛星通信サービスと組み合わせることで、低料金で多くの農場/漁場関係者の方々にお使いいただくような仕組みも考えていきたいと思います。


 「きずな」社会化実験の結果を受けて、「きずな」や今後のJAXAの通信衛星の技術開発に対する意見や要望はありますか。

『先進的な機能を持つ技術試験衛星の継続的な開発に取り組んで頂きたいと思います。』

 「きずな」衛星は、様々な研究開発/実験にフレキシブルに対応できるよう、様々な機能を搭載しており、衛星としては複雑な作りになっていたと思います。地球局も、エンドユーザーの利用を念頭に置いていたわけではないので、プロ仕様のものとなっていました。そのため、民間企業がシンプルに衛星回線を利用するには、若干大変な部分もあったかと思います。民間利用社会化実験という試みは、そういった、開発衛星に求められるもの/実利用衛星に求められるものの違いも明らかにできたと感じています。
 また、「きずな」は2008年の打上げから約7年を経過していますが、衛星通信業界を取り巻く環境は変化し続けており、通信の大容量化、衛星伝送容量の増加に伴う回線料金の低減化が一層進んでいます。このような状況に対応するためにも、先進的な技術開発は継続的に実施されていくことが大切だと考えています。民間企業ではなかなか投資することが難しいハードルの高い技術実証を行って頂き、実証後の技術を商用ベースで活用することができればすばらしいと思います。


 熊田さんは通信衛星が今後どのように利用されると良いと思いますか。

『通信衛星にしかできないこと、がまだまだあると思います。』

 現在は、都心部であれば一般企業/家庭でも高速のネット環境は整っている時代です。必ずしも「衛星」である必要はないのではないか、という気持ちを抱きながらも、「衛星」であるところに意義を見いだせるような実験を手探りしてきました。
 そのような中で、例えば医療分野においては、災害時利用、遠隔地医療等、まだまだ様々な衛星利用のニーズがあると感じました。ですが、有償であることはハードルが高いことも事実であり、衛星利用が広まらない、従って衛星の有用性が広くは認識されない一因にもなっていると思います。国民の健康は国にとっても重要な課題です。政府が医療分野での通信衛星利用に援助する施策等を図れば、今後医療分野における衛星利用も益々広がっていくのではないかと思います。
 また、スマホ、タブレットといった情報伝達ツールと通信衛星を組み合わせての防災利用も、地上回線に依存しない通信衛星の特性が発揮できるところです。地震大国である日本にとって、今後こういった備えが広がっていくことを期待します。


 最後に一言お願いします。

 インターネットが普及し始めた頃、今のように高速ネット環境が当たり前という状況ではなかったため、「衛星インターネット」が実現すれば夢のようなネット環境を生み出してくれるはずと、大きく期待していました。高速のインターネット環境が整えば、様々なことが可能になるだろう、とワクワクしたものです。私は、当社がNTTと共同で設立した衛星インターネットの会社に出向していた経験もあります。そんな、私にとってはなじみの深い「衛星インターネット」、それも「超高速衛星インターネット衛星」という冠のついたJAXA様の「きずな」の利用推進に関わることができたことは、とても貴重な経験となりました。この場を借りて御礼申し上げます。