宇宙航空研究開発機構

突撃!きずな実験レポート 第19回(2013.01.09)

第19回目は「きずな」を使った社会化実験の利用推進に取り組んでいるスカパーJSAT株式会社の前田様にお話を伺いました。

『「きずな」(WINDS)社会化実験について』

スカパーJSAT株式会社 宇宙ビジネス推進部長 前田 吉徳
スカパーJSAT株式会社
宇宙ビジネス推進部長
前田 吉徳
前田 吉徳(まえだ よしのり)
学歴
・大阪大学 基礎工学学士
・南カリフォルニア大学 大学院 経営学修士、経営科学修士
職歴
・日本通信衛星、スカイパーフェクトコミュニケーションズ゙、ペイパービュージャパン、スカパーJSAT(株)等の各社で、主に通信事業・放送プラットフォーム事業・放送事業等を、企画部、マーケティング部、営業部、統括部等の立場での取組みを経て、現職

 まず、スカパーJSAT株式会社について教えていただけないでしょうか。

『世界第5位の固定衛星通信事業者であり、かつ、国内最大手の有料多チャンネル放送事業者です。』

 スカパーJSATは、人工衛星に関わる主に2つのビジネスセグメントを持っております。1つは、日本・アジア・豪州・太平洋・インド洋・北米にサービスを展開する固定衛星通信事業です。他社との共同保有/ジョイントベンチャー(JV)を含めると静止衛星軌道上に16個の衛星を持ち、世界5位クラスの衛星オペレーターです。もう一つの事業は、日本の皆様に「スカパー!」の愛称で親しまれている有料多チャンネル放送事業であり、約370万の加入者の皆様に視聴いただいております。


 今回スカパーJSAT殿が「きずな」を使い、JAXAのもとで実施している社会化実験とはどういったものでしょうか?

『社会化実験は、「きずな」を使った実験を広く民間で行っていただこうという取り組みです。またそれと同時に、「きずな」の運用もJAXA殿から請け負っています。』

 社会化実験は、「きずな」を使った実験を広く民間で行っていただこうという取り組みです。全て無償で実験利用をいただくのではなく、実験で必要な実費を実験ユーザー殿にご負担をいただきながら活用ができるかを試す取り組みでもあります。また、同時に「きずな」の運用もJAXA殿から請け負っています。                         

 「きずな」は技術開発衛星なので実験や技術開発に日々活用されていますが、空き時間等で使われていない回線容量を一般に開放し、実用の前段階としてのトライアル利用など、一般の法人ユーザーにご活用いただけます。例えば、衛星回線を通しての新しい機器やアプリケーションの検証実験や、「きずな」からインターネットに接続させての実験など、なるべく簡単にご活用いただけるような工夫をしております。>                         

 このような仕組みを設けることによって、「きずな」の使用感や皆様のご意見を集めて、今後のJAXA殿の技術開発にも生かしてもらえればと考えております。


 現在実施している社会化実験の内容と利用促進状況を教えてください。

『2012年6月から社会化実験の利用促進を開始し、新規実験ユーザーの開拓を進めています。また、幾つかの実験ユーザー殿の本格的な実験開始へ向けた準備も進めています。』

 「きずな」の社会化実験では、新規実験ユーザーの開拓を進めています。「きずな」の特徴である大容量通信を生かして、たとえば通信機器の検証実験やアプリケーションの検証実験などを行うことができます。                

 ご興味をお持ちの企業や大学や機関などの方は、ぜひ弊社までお問合せください。


SNET群馬通信センターに設置されているHDR-VSAT

 今後どのような通信衛星が期待されているでしょうか?お聞かせください。

『一言で言うと、国際競争力を高める衛星です。低コスト(衛星だけでなく地上局も)、総伝送容量の大容量化、カバレッジ、移動体対応、宇宙空間通信などがキーワードになります。』

 弊社は人工衛星を調達してきてその通信・放送能力を販売しております。またはその通信・放送能力を使って自ら放送事業を行っています。

 宇宙に国境はなく、日本含めた多くの国々で衛星通信・放送市場はかなり自由化されており、各国の衛星オペレータ間で激しい国際競争が行われています。そこで生き残っていくためには、より低コスト(衛星だけでなく地上局も)で、大容量で、カバレッジエリアのよい衛星が望まれています。

 「きずな」のような大容量通信が可能なHTS(High Throughput Satellite)は、伝送するビット単価を下げるための有力な一分野で、衛星事業者間の国際競争の行方を今後左右するかもしれない技術です。地上の光ファイバの敷設が困難な分野で強い需要が見込まれるかもしれません。たとえば、移動体(飛行機・船・車・歩行者など)、島嶼地域や低人口密度地域、発展途上国、宇宙空間などがその分野です。また、災害に強い通信手段としての衛星通信の利用は、言うまでもありません。

 その他にも、需要の変化に応じて衛星の軌道位置を動かし、衛星のビーム形状や周波数・偏波が簡単に変えられるような衛星があれば、とても効果的です。

 また、人工衛星には寿命があり、衛星への設備投資はその寿命の間に回収できねば次の設備投資につながりません。陳腐化というリスクを除けば寿命は長ければ長いほど良く、最近の通信衛星では15年以上使えるというものが一般的になりました。


 将来の衛星通信におけるJAXAへの期待を教えてください。

『マクロで長い時間軸を意識した目線で、10年20年先を見据えた技術開発をしていただきたいと思います。』

 前項の質問にも関連しますが、島嶼、低人口密度・開発途上国、宇宙空間、移動体(飛行機・船・車・歩行者)などの分野や、災害時の通信など、ひとえに「制限」や「国境」やいわんや「地球圏」というものの垣根を出来るだけ低い、または「ない」分野に、衛星通信は進んでいくことになると思います。         

 JAXA殿には、我々企業ではなかなか手がつけられない、マクロで長い時間軸を意識した目線で、10年20年先を見据えた技術開発をしていただきたいと思います。


 スカパーJSATは自社で多くの実用通信衛星を所有しているのに、どうしてWINDSの社会化実験に協力しているのですか?

『「きずな」という衛星がどのようなものか、興味があったからです。』

 今世界中の衛星オペレータの間で、今後の衛星通信の大きな分野となるであろうと期待されており、業界ではホットなキーワードとして「HTS(High Throughput Satellite)」があります。「きずな」は、HTSに関連するテクノロジーが搭載されている実験衛星です。この衛星を実際に衛星管制や回線運用をしたり、実験ユーザーへの利用促進に協力したりすることにより、その技術をより深く理解できます。

 また弊社は、日本含めた世界5社の衛星メーカーの実用・商用衛星を運用しておりますが、JAXA殿が開発した技術開発衛星を運用したことはこれまではありませんでした。今回はじめてJAXA殿の衛星を運用することができ、技術開発衛星から実用・商用衛星まで視野を広げることができました。

 さらに「きずな」を運用するにあたり新たな取り組みとして、「きずな」衛星メーカーでもある日本電気株式会社と協力しJAXA殿の筑波宇宙センターではなく弊社の横浜衛星管制センターから運用を行っています。

 JAXA殿とのこれらの取組は初めてでありまして、弊社の歴史なかでは画期的なものです。このような機会を生かして、今までの常識や古い成功体験に縛られた井の中の蛙にならず、我々の目線をよりマクロに、宇宙レベルに広げていきたいと考えています。