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突撃!きずな実験レポート 第18回(2012.11.30)

第18回目は都道府県医師会救急災害医療担当理事連絡協議会において「きずな」を利用した防災利用実証実験を実施しました社団法人 日本医師会・常任理事の石井様にお話を伺いました。

『日本医師会デモンストレーションから見えた災害時の情報共有の未来』

社団法人 日本医師会 常任理事 石井 正三
社団法人 日本医師会
常任理事
石井 正三
石井 正三(いしい まさみ)
1975年 弘前大学医学部卒業
1979年 弘前大学大学院医学研究科卒業、医学博士
2002年 いわき市医師会会長就任
2006年 日本医師会常任理事就任
2009年 世界医師会副議長就任

 日本医師会の災害医療チームJMATの活動内容について教えてください。

『被災地の医療支援を行い、被災者の健康と生命を守り、地元の医療復興に寄与することです。』
                                    

 JMATは、被災地の救護所や避難所における医療活動、および被災した医療機関への支援活動を主な目的としています。その他、避難所のトイレや水道等被災地の公衆衛生的アプローチ、避難者の食生活の改善要求、感染管理・在宅医療・巡回診療等も行います。

 東日本大震災発生時はまだ準備段階でしたが、急きょ編成・派遣を決定しました。JMATは2011年7月15日までに1398チームを派遣し、その後もJMATⅡとして現在まで支援活動を継続しています。

 また、被災地の医療体制が復旧、復興してきたとき、それまでの医療活動をスムーズに地元医療機関に引き継ぐことも重要なものとして位置づけています。


 東日本大震災におけるJMATの活動で通信の課題はございましたか?

『特に被災地に派遣されたJMATとの間の情報共有が必要でした。』

 個々のJMATの派遣期間は3日~1週間程度をメドとしています。そのため、次に派遣されるJMATとの間で引き継ぎが大切です。したがって、主にJMATの派遣元と現地にいるJMATとの間で、被災地の状況(避難者の病態、医療ニーズ、不足物資、避難所の衛生環境)を情報共有することが必要でした。JMATの派遣元は毎回同じところ(医師会、医療機関)とは限らないので、全国での情報共有が重要です。

 そして、被災地との情報共有には、クラウドなどインターネットを利用することがとても有効であることが、今回の大切な教訓であったと思います。



 今回の実験では、災害発生時を想定して医療カルテなどの情報共有の為のインターネットやテレビ会議を利用されましたが、JMATなど日本医師会の災害医療活動のどういった場面で有効性を果たすとお考えでしょうか。また、今回の実験での印象をお聞かせください。

『日本医師会、被災地の都道府県医師会、医療支援を行う非被災都道府県医師会という三者の情報共有が、基本です。』

 デモンストレーションにあたっては、東日本大震災の大切な教訓を踏まえ、TV会議とクラウド・コンピューティングを重要なコンテンツとした2本のシナリオを考えました。

 1)日本医師会では、東日本大震災時、被災県医師会との間でTV会議を行い、現地の状況、被災県医師会・県行政の対応、必要な支援などを協議しました。TV会議には非被災都道府県医師会も参加しましたが、三者による災害時の情報共有は、非常に有効な対応であったと思います。

 2)JMATに限らず、被災地に派遣された医療チームの間でカルテを含めた情報がなかなか共有されないという課題が残りました。同じところが派遣したチーム同士ならば情報の引き継ぎも容易ですが、大災害の時は様々なところから多数のチームが派遣されます。現地で皆が参加するミーティングを行い、情報共有を図った例もありますが、地域差がみられました。特にカルテは、外部からの医療支援チームだけではなく、復旧した地元医療機関が被災患者の診療を引き継ぐ際にとても重要な情報です。

 今回の実験は、直前まで「きずな」を介したテレビ会議がつながりませんでしたが、JAXAの大変なご尽力のおかげで本番では成功し、とても評価しています。




 災害医療などにおける通信衛星の利用について、今後の要望や課題がありましたら教えてください。

『安定し、かつシンプルで使いやすいシステムにしてください。』

 災害時の大混乱の中、我々医師会関係者が通信衛星を活用するためには、衛星や通信の専門家でなくとも、すぐに使用でき、かつ良好な通信状態が安定していることが不可欠の条件です。

 また、事前の衛星アンテナの常時設置にあたり、コスト面、技術面(受信条件の改善など)、メンテナンスなどの配慮もお願いします。


 今回の実験を踏まえ、日本医師会として、災害時の衛星利用にどのような取り組みをしていくか教えてください。

『次期衛星の打ち上げを見据え、国に対して、災害時の情報共有体制を強化するよう働きかけていきます。』

 日本医師会では、本年7月、国に対して次のような予算要望を行いました。今後も、JMATの体制整備とともに、こうした活動を続けていきたいと思います。

 ・「災害通信衛星による災害時のブロードバンド・インターネット接続環境や携帯電話への緊急情報提供の推進」

 ・「災害時における医療支援のための情報共有ストレージ空間の整備」


 JMATの体制整備について、今後どのような方策を行っていくか教えてください。

『来るべき次の災害に向けて、「災害への備え」(Disaster Preparedness)を充実させていきます。』

 東海地震、東南海地震、南海地震や首都直下型地震の発生は、以前から高い確率で予測されています。日本医師会は、日本の医師を代表する集団として、その備えを行っていく役割を担っています。

 日本医師会は、JMATは全ての医師が参加しうるものと考え、医師の生涯教育の一環として、災害医療に関する研修を行っていく方針です。今回の実験でも、災害時の情報共有を学ぶという側面がありました。また実験当日は、災害医療に関する講義(災害医療支援者のメンタルヘルス、法的課題)やJMAT活動報告(派遣側、受入側)を併せて行っています。さらに実験に先立つ2012年3月10日には、「JMATに関する災害医療研修会」として9科目の研修プログラムを実施しました。

 また、災害前~発災時~収束時までの各段階に応じた災害対応マニュアルも検討するとともに、国の防災行政における日本医師会の位置づけ強化も目指していきます。

 現在、各都道府県医師会、郡市区医師会で、医師会相互や行政との災害時医療救護協定の締結や見直し、自地域の災害リスクの評価、JMAT参加者の登録などの準備を進めています。日本医師会として、各医師会と共同歩調をとりながら災害への備えを充実させていきたいと考えています。