宇宙航空研究開発機構

突撃!きずな実験レポート 第11回(2011.04.20)

第10回と第11回は、2010年11月30日、東京都立広尾病院と小笠原村立小笠原村診療所間を「きずな」を使って実施した遠隔医療の模擬実験に参加された、城川先生と藤原先生にそれぞれお話を伺いましたので、2回に分けて紹介いたします。今回は小笠原村診療所の医師 藤原先生のお話です。

『ブロードバンドでつなぐ、命のきずな』

小笠原村立小笠原村診療所 医師(総合医) 藤原 正識
小笠原村立小笠原村診療所
医師(総合医)
藤原 正識
藤原 正識(ふじわらまさのり)
平成13年 私立開成高等学校卒業
平成19年 自治医科大学医学部卒業
同年より 東京都立府中病院(現在の多摩総合医療センター)にて2年間の初期臨床研修、その後1年間の専門研修
平成22年 小笠原村診療所勤務

 遠隔医療実験を実施するきっかけを教えてください。

『小笠原における医療発展につながることを期待したからです。』
遠隔医療実験図
                    

 小笠原はISDN通信による限られた通信環境ですので、きずなを使った高速通信の遠隔医療への有効性検証という今回の実験の趣旨に適した条件であると考え、小笠原での医療の発展のためになればと思い、都立広尾病院の協力を得て実験を行うことを決めました。

 都立広尾病院には、島嶼機関病院として緊急時の救急搬送の大部分を受け入れてもらっていたり、普段からも患者さんの紹介やコンサルトを多数受けてもらっていることで、当診療所とは密接な関わりがあります。自分も含めて、小笠原に勤務してきた自治医科大学の先輩が広尾病院の救急部に数名所属していたり、診療所長の高田医師が研修医時代から広尾病院に勤務していたりと、個人的にもつながりの強い関係にあります。


 これまで島嶼の遠隔医療についての課題はどのようなものがありますか?

『現場のありのままの状況を高次医療機関に伝えることが困難でした。』

 内地の専門医療機関にレントゲン・CT画像や写真、心電図等、データを転送してコンサルトすることは可能ですが、こういった資料をまとめて転送処理し、それを見てもらった後に電話で相談をするというやり方になり、どうしても手間がかかってしまいます。 また、回線の通信速度が遅いため、動画などはとても送れる状態ではありません。都内まで片道25時間半、週に一度しかない船便では、時間的な面、金銭的な面でハードルが高く、気軽に都内で受診することができません。現地で提供できる医療資源が限られてしまうこと、また、それが赴任している医師によってばらつきが出てしまうことが課題として挙げられます。


 今回の実験で評価や実証したい点はどのようなものでしょうか?

『リアルタイム通信が可能であるか。』

 人員、技術の限られた遠隔地の診療所においても、今日の専門志向の要求になるべく応えたいと考えています。そのために、超音波検査の動画や内視鏡検査の映像といったデータ量の大きいものに関してもリアルタイムでの転送が可能かどうかが大きなポイントになると考えました。 これらの通信面の改善によって、専門医療機関の監督のもと、処置や検査を行うことができれば、患者さんを上京させなければならない機会を減らせるのではないかと考えたからです。


 実験での成果を教えてください。

『通信速度、質ともに予想以上のものでした。』

 ビデオカメラを使った映像の転送は、ほぼリアルタイム(往復の時間差約1秒)でやりとりができました。 また、超音波や内視鏡の映像は、直接回線をつなぐことでオリジナルの画質を高速で送ることができました。これまで上京しなければ受けることのできなかった専門医の面談や、検査に対する評価が、小笠原に居ながらにして受けることのできる部分が拡がってくると、期待を持てました。

遠隔医療実験の様子

 きずなのようなブロードバンド通信を使った今後の遠隔医療の進展・展望をおきかせください。

『“1対1”から“多対多”への発展を。』

 高速、高容量のブロードバンド通信を活用することで、効率よく情報をやりとりするだけでなく、現場における第3者の“目”としての機能が果たせるのであれば、先端技術を一部でも遠隔地に届けることができることになります。 ケーブル敷設によっても、同等の効果を期待できる可能性はあります。しかし世界中にケーブルを設置できるわけではないので、人工衛星を利用することで国の国境を越えた知識・技術援助を発展させていくことが理論的には可能といえます。 ただ、いずれの場合も、通信設備の確保と、システムの確立が課題になってくると考えられます。特定の施設間でのやりとりだけでなく、全国にネットワークをつくり、多対多でのシステムが実現できることが望ましいと思います。