宇宙航空研究開発機構

突撃!きずな実験レポート 第10回(2011.03.09)

第10回と第11回は、2010年11月30日、東京都立広尾病院と小笠原村立小笠原村診療所間を「きずな」を使って実施した遠隔医療の模擬実験に参加された、城川先生と藤原先生にそれぞれお話を伺いましたので、2回に分けて紹介いたします。初回は東京都立広尾病院の医師 城川先生のお話です。

『医療僻地を支える「きずな」』

東京都立広尾病院 救命救急センター 医員 城川 雅光
東京都立広尾病院 救命救急センター
医員
城川 雅光
城川 雅光(しろかわまさみつ)
2004年名古屋市立大学医学部卒業、同年より都立広尾病院にて臨床研修医、2006年に後期研修医として麻酔、救急を研修した。
2007年より救命救急センターにて勤務
救急専門医
麻酔科認定医

 遠隔医療実験を実施するきっかけを教えてください。

『都立広尾病院が東京都の島嶼在住患者を診療する基幹病院だから。』
                    

 JAXAと小笠原村診療所の共同実験に協力する形で広尾病院も参加した。都立広尾病院は主たる受け入れ後方医療機関であり日常的に救急患者を小笠原から受け入れている。そのため遠隔医療を行う上で、日常的に電話相談を受けており、今回の実験でより効果を認識しやすい立場にある。







 これまで島嶼の遠隔医療についての課題はどのようなものがありますか?

『専門外の患者の診療に苦慮している。病院転送にも時間が要する。』

 島嶼で勤務している医師は限られ、専門性にも偏りがある。島嶼の医師は常時、全患者への対応をせまられ専門外の患者の診療には苦慮している。そのため緊急を要する場合は電話での助言要請などが行われてきたが、処置などの指導には音声だけでは限界があった。 また後方病院への転送にも伊豆諸島で3時間程度、小笠原諸島からは飛行艇搬送でも8時間かかり島外搬送の決断時期などに苦慮している。


 今回の実験で評価や実証したい点はどのようなものでしょうか?


『現在の小笠原の通信環境では動画での通信を成しえなかったが、高速インターネット衛星「きずな」を利用し、動画で処置指導などか可能かどうかを検証した。』

 今回高速回線を用いた動画を利用した通信で、処置指導や現場の雰囲気をふまえた内地からの助言が実際の診療に耐えうるものかどうかを検証した。特に画像診断では高画質の映像が必要であり、レントゲンやCTフィルムが診断に耐えうるかどうかを検証した。 また通信にかかる情報伝達の遅延が、処置指導にどの程度影響するかを検証した。


 実験での成果を教えてください。

『予想以上の高画質が得られた。また衛星遅延も十分臨床使用に耐えうる短さであった。』

 実験結果は予想よりも高画質の情報を送ることができ、CTやレントゲンは臨床判断に十分耐えうるものであった。また音声の遅延も処置指導には問題なく使用でき、今後の島嶼地区の診療向上に役立つものと思われる。



 きずなのようなブロードバンド通信を使った今後の遠隔医療の進展・展望をおきかせください。

 日本はまだ医療僻地といわれる地域が多くあり、ヘリコプター搬送なども限られている。そのような地域で発生した救急患者を診療する医師に対しては動画を使用することで今後、専門的な緊急処置を要する患者を転送前に処置できる可能性があり、患者の状態改善につなげることが出来ると期待している。また精神診療では患者の様子も合わせて視覚的に診ることが出来るため応用が期待される。
 今後、海底ケーブル敷設後に高速回線が利用できるようになった場合、処置を要さない専門診療は定期的に遠隔地から行える可能性がある。しかし現在、遠隔医療に対する保険制度などの法整備が不十分であり、この問題の解決があればさらに発展が期待できる。
 また衛星を介した回線は災害時の活用や、島国からなるアジア太平洋の諸外国での活用にも応用できるものと思われる。太平洋のある地域では特定の島にしか医師がいない為、無線機で患者情報を交信し遠隔医療を行っている地域もある。今後日本が行う国際協力といった観点からも通信システムの提案は有用である可能性がある。