宇宙航空研究開発機構

突撃!きずな実験レポート 第7回(2010.04.01)

第7回目はNHK技術局報道施設部中尾様に「きずな」を使った映像伝送実験についてのお話を伺いました。

『衛星を意識しない地上IPネットワークとの接続を目指して』

NHK 技術局報道施設部 中尾 幸嗣
NHK
技術局報道施設部
中尾 幸嗣
中尾 幸嗣(なかお こうじ)
経歴
東京理科大学大学院工学研究科電気工学専攻を修了し、日本放送協会(NHK)に入局。地方放送局で番組制作及び送受信設備整備を担当後、2006年から技術局報道施設部に配属となり、主に衛星・有線ネットワーク設備を担当。全国の衛星伝送設備、TV・ラジオ放送用回線、社内イントラネット設備等の設備整備を担当する。
JAXA殿との「きずな」共同実験を通して、次期衛星映像伝送の検討を実施している。

 「きずな」の実験に参加された目的は何ですか?

『「きずな」は自然災害時など報道用の新たな情報伝送手段として注目しています。』

 高速・大容量データ通信を実現する「きずな」は、運搬が容易な小型地球局による大容量伝送が可能なことから、緊急災害時の被災地からの高画質な映像伝送により状況を正確に把握できると考えています。また、災害により地上ネットワークが寸断された場合も「きずな」を通じて地上インターネット網と同様の環境で通信を行うことができるため、衛星IPネットワークを活かした新たな情報伝送手段として注目しています。




 今までに実施した「きずな」実験の内容について教えてください。

『北京オリンピックでの伝送実験を始め、放送局における「きずな」の活用方法を検討してきました。』

北京オリンピック伝送実験風景  北京オリンピック伝送実験ではNHK放送センター(渋谷)、北京オリンピック会場、NHK中国総局(北京)、NHK名古屋放送局の4か所に地球局を設置して、「きずな」を使用したHV映像伝送及びファイル転送を実施しました。HV映像リモート編集実験では映像ファイルが保存されている北京側サーバーとNHK放送センターにある編集端末を「きずな」でつなぐことにより、リモートで編集できることを確認しました。今後、光ファイバー網が整備されていない場所で行われる海外イベントなどでも、衛星により、編集オペレータが現地に行かずに日本にいながら編集ができることが期待されます。



 報道に一番求められる条件は何でしょうか?報道という観点から見た「きずな」の特長は何ですか?

『報道では緊急災害時などに視聴者の皆様に迅速に正確な情報をお届けする必要があります。』

北京総局設置可搬型USAT  被災地では地上ネットワークが寸断されている場合があり、現在、衛星を利用して映像伝送を実施していることが多いですが、パラボラが大きく、運搬に苦労します。「きずな」はKa帯を使用することで運搬が容易な小型地球局によりHV映像のような大きなデータ伝送が可能なことから、被災地からの高画質な映像伝送により状況を正確に把握できると考えています。





 「きずな」は降雨減衰対策として送信電力の制御が行えます。この機能に期待していることはありますか?

『いつでも、どこでも安定した伝送をするために、高周波数帯を使用することによる弱点を衛星の機能により補償することは必要と考えます。』

 「きずな」はKa帯という、衛星通信で一般的に使用される周波数よりも高い周波数を使っています。この高周波数帯は、小さなパラボラでより多くのデータを送受信できますが、その反面、降雨による減衰を受けやすくなります。雨の量に応じて電波の出力を自在に調整できる「きずな」のマルチポートアンプは、雨が多く降っている地域には電波の出力を上げることができ、降雨に強い通信ができるようになります。また、通信需要の高い地域への電波の出力を上げることで安定した高速伝送ができるようになります。緊急災害時等、視聴者の皆様に迅速に情報をお届けするためには、必要な機能と考えます。


 従来の衛星通信と比べ、「きずな」の利用方法に違いはありますか?今後の通信衛星に期待することは何ですか?また、「きずな」の様な通信衛星があるとどのようなメリットがあると考えますか?

『「きずな」のようなIPネットワーク衛星により、将来、衛星を意識せずに地上IPネットワークとの接続が可能になると考えます。』

 従来の衛星は同報性という特徴がありますが、「きずな」はIPネットワークのため、同報性に加え、IPアドレスによる特定の相手先への伝送が可能となります。また、IPの特徴を活かし、映像の多重伝送も安価な機器で容易に可能となります。「きずな」は地上のIPネットワークとの親和性が非常に高く、将来的には衛星を意識せずに地上IPネットワークとの接続が可能と考えます。NHKでは放送に役立つ新しい技術をこれからも積極的に取り入れていきたいと考えております。


 アンテナ設備も含め、「きずな」利用の将来性や発展性など、今後の展望をお聞かせ下さい。

『衛星によるインターネット回線を広く普及させるためには、手軽に大容量伝送が可能な小型地球局の開発が必要と考えます。』

可搬型USAT設置風景  被災地での地球局セットアップに時間が掛かると視聴者の皆様に迅速に情報をお届けすることができません。JAXA殿との共同実験「H20年度 超小型可搬型地球局の運用性等に係る検証」の中で実際に可搬型USATを組み上げ、運用に必要な改善項目を提案し、改修版可搬型USATが製作されました。これにより組み上げ時間が大幅に短縮され、NHKで運用している可搬地球局とも遜色のない性能となりました。 また、一般の家庭での話で言えば、「きずな」の小さなアンテナを設置することで手軽にインターネットができるようになれば、都市部と山間部・離島でのインターネットによる情報格差が解消できると考えます。