宇宙航空研究開発機構

突撃!きずな実験レポート 第6回(2010.03.26)

第6回目は大阪大学コミュニケーションメディア/教育工学研究室の方々から「きずな」と「超鏡システム」を使った実験についてのお話を伺いました。

『「きずな」で実現した高精細HD映像による3地点「超鏡」
―小学校での交流学習と中学校での素粒子物理学の学習?』

大阪大学大学院 人間科学研究科先端人間科学講座 コミュニケーションメディア分野・臨床教育学講座教育工学分野
左から上田さん、前迫教授、中澤さん、奥林さん、森助教

大阪大学大学院
人間科学研究科先端人間科学講座
コミュニケーションメディア分野・
臨床教育学講座教育工学分野
前迫孝憲教授、森秀樹助教
奥林泰一郎(院生)、中澤明子(院生)、上田明久(学部4回生)

所属研究室について
 大学院生約10名、学部生6名が在籍しており、教育工学を研究しています。「超鏡」による遠隔教育のほかにも、ヒューマンインタフェース、教育におけるメディア活用、学習と脳活動、子ども向けプログラミング環境等、さまざまなテーマの研究を進めています。

 まずは、今回実験に使用している「超鏡(ハイパーミラー)」について簡単にご説明していただけますか?

『遠隔地と空間を共有できる映像コミュニケーション・ツールです。』

超鏡による合成画面  「超鏡」は、遠隔地の相手像と左右反転した自分の映像とを合成し、遠隔地の人とまるで同じ空間にいるかのように対話できるコミュニケーション・ツールです。遠隔地の相手も自分と同じ「超鏡」の合成画面を見て活動するので、画面上で“もの”の共有や、指差しが可能です。 また、自分の映像を左右反転して表示しているので、鏡を見ているかのように活動できます。従来のテレビ会議システムでは、遠隔地との空間の分離や視線の不一致といった課題がありました。しかし、「超鏡」では合成画面で空間を共有でき、体を相手に向けることで視線を代用するため、こうした課題を解決できます。


 具体的な「超鏡」の学習環境はどのようなものでしょうか?

『ブルーバックやカメラやクロマキー合成や左右反転装置、テレビ会議システムなど多くの機材を使って学習環境を構築しました。』

超鏡の学習環境  「超鏡」では、遠隔地の相手像と左右反転した自己像とを合成します。そのため、カメラや映像・音声を伝送するテレビ会議システムの他に、合成装置と左右反転装置が必要です。また、合成にはクロマキーという、特定の色部分に映像をはめこむ効果を用いています。 ですので、実験会場にはブルーバック(青い布)を設置します。カメラ、モニタ、合成装置、左右反転装置、スピーカーなど、多くの機材を使って「超鏡」を構築しました。




 「きずな」の広帯域・多地点メッシュ型ネットワークと「超鏡(ハイパーミラー)」により、どのような実験を行うことが出来ましたか?

『高精細HD映像と多地点「超鏡」による遠隔学習を行えました。』

2009年小学校での遠隔学習時  2009年は、広帯域ネットワークを活用し、高精細HD映像を用いた「超鏡」を構築して遠隔学習を実施しました。また、2010年には広帯域・多地点メッシュ型ネットワークを活用して、3地点を接続した「超鏡」による遠隔学習を行いました。2009年の遠隔学習では、大阪と大分の小学校間で、学校や文化の交流、宇宙に関する合同授業を行いました。
 2010年の遠隔学習では、筑波の高エネルギー加速器研究機構と奈良、熊本の中学校の3地点を接続し、高エネルギー加速器研究機構の研究者による中学生向け素粒子物理学の授業を行いました。どちらの遠隔学習においても、相手の表情や指差しの場所がはっきりと見えることや、臨場感の向上、高解像度表示がもとめられる教材の利用といった有効性が確認されました。また、初めての多地点「超鏡」を実現でき、学習環境としての検討を行うことができました。


 実験を通して、教育から見た「きずな」の特徴は何だと思われますか?

『ズバリ!高精細映像を安定してどこからでも送受信できる点』

 小中高等学校は、地域イントラネットで接続されている場合が多く、地域外の学校とTV会議システムを用いて交流することが難しいのが実状です。そのため、「きずな」の「どこでも」繋がるという特徴は非常に魅力的です。また、高速インターネット網が十分に整備されていない地域の学校において遠隔学習を行う場合も同様に「きずな」の特徴が魅力的に感じられます。くわえて、「きずな」のアンテナは比較的小さく、設置場所にさほど困らないというのも教育現場にとって良い点だと考えられます。 そして、広帯域による通信が可能なため、高精細な映像伝送ができ、普段教室で使っている教材などをそのまま使うことができます。


 遠隔学習の最中の生徒はどんな様子でしたか?

『授業に集中し、遠隔地の相手とのやり取りを楽しんでいるようでした。』

2010年中学校での遠隔学習時  2010年に実施した遠隔学習は、2校で別々に研究した成果を発表・共有するかたちで行われました。発表後には、生徒間での質疑や専門家からのアドバイスが行われました。90分間の長時間に渡る授業にも関わらず、生徒が集中できたのは、専門家による授業内容の工夫に加え、「きずな」の広帯域ネットワークで高精細HD映像と音声のやりとりが途切れることなく実現できたことがあげられます。
 授業中は、相手の発表内容を一生懸命理解しようという姿が見られました。また、「超鏡」越しに見える他校の様子に、まず生徒は興味を抱いたようでした。授業開始前に、教室に入ってくると遠慮しながら画面に入り込んだり、他校の生徒へ手を振る様子が見られました。また挨拶の際には、あたかも隣にいるかのように、お互いに照れ合っていた熊本の男子生徒と奈良の女子生徒のやりとりが印象に残っています。


 遠隔学習での生徒の様子や成果はなんでしょうか?

『生徒の興味・関心を引き出せたことが、最も大きな成果だと考えています。』

 生徒たちはまず、学習内容に興味・関心を持ったようでした。また、「きずな」のアンテナや機器、「超鏡」用のカメラや通信機器、映像合成機器など、学習環境を構成する様々なテクノロジにも、生徒は興味を持ったようでした。準備作業をすすめていると、休み時間に教室をのぞきにくる生徒は後をたちませんでした。衛星通信をはじめとする技術そのものは、今回の学習課題ではありませんでしたが、JAXA関係者や私たちの準備作業からも生徒のテクノロジへの興味・関心が引き出せたと思っています。


 今後の通信衛星にどのようなものを求めますか。また、「きずな」のような衛星が実用化できれば、教育にどのようなメリットがあると考えていますか?

『国際間の共同学習等に自由に使えれば嬉しいですね。』

 衛星は、空が見通せる限り電波を届けられるため、災害時の緊急連絡用として代わるものは無いと思われますが、普段から多様な学習を支援するメディアになることが期待されます。インターネットでテレビ電話など映像や音声を扱う場合、UDPという規格が用いられますが、国際間ではパケット落ちと呼ばれる状態が多く発生し、伝送の難しいこともしばしばです。このような時に「きずな」のようなインターネット衛星が威力を発揮します。
 また、電気が引かれていないアフリカの草原の学校との交流学習の支援を行ったこともありますが、離島や僻地を含め、世界や日本の中でも通信網の整備が不十分な所はたくさん残されており、このような時には衛星に頼らざるを得ません。2002年から約1年間、衛星テレビとインターネットによる世界初日本発の国際教育チャンネル『NIMEワールド』が実施されましたが、今後、教育に利用できる静止軌道のトラポン(通信衛星の中継器、アマチュア無線用なら学校からも活用可能)が準備されると、アジア太平洋地域の教育機関をつなぐ新たなHD映像遠隔学習(例えばインドから日本語遠隔授業の希望が寄せられています)や通信の仕組みの学習教材としても期待が広がります。さらに、遅延時間が少なく簡単な機材で利用できる通信衛星(低軌道)も試して頂きたいですね。