宇宙航空研究開発機構

突撃!きずな実験レポート 第5回(2010.01.20)

第5回目は国土交通省国土地理院 大野様に災害対応面からの「きずな」の活用についてお話を伺いました。

『災害時の確実な大容量通信手段を求めて
 ~一刻でも早く被害の全体像を把握するために~』

国土交通省国土地理院 測図部測図技術開発室長 大野 裕幸
国土交通省国土地理院
測図部測図技術開発室長
大野 裕幸
大野 裕幸(おおの ひろゆき)
経歴
 日本大学大学院交通土木工学専攻を修了し、平成7年から国土地理院。地理空間情報の利活用と地図作成の効率化に関する研究開発に従事。平成15年に電子国土Webシステムを開発。現在は災害発生時の迅速な被害箇所把握技術と地図の自動編集に関する研究を担当している。

 現在、災害時の連絡・通信手段は、どのような仕組みで行われているでしょうか。

『通常の連絡や小さなデータの伝送には、内部回線や公衆回線を使います。空中写真のような大きなデータは陸送による現物輸送に頼っています。』

測量用航空機「くにかぜ」  国土地理院では、大きな災害が発生すると、その災害の全体像を把握するために測量用航空機「くにかぜ」を使って空中写真の緊急撮影を実施します。数年前までは、空中写真はフィルム式のカメラで撮影していましたから、フィルムそのものを輸送するしかありませんでした。それも、最近ではデジタルカメラで撮影するようになったため、最初から空中写真画像というデータとして取得できるようになり、緊急時に「データとして伝送する」ということが視野に入ってきました。
 しかし、いまのところ緊急時に数十~数百ギガバイトにもなる空中写真画像を伝送できる確実な通信手段が確立できておらず、依然として画像をハードディスクに格納して陸送するのが、最も確実で速いというのが現状です。


 現在の連絡・通信システムで、困ったことやトラブルはありましたか。

『遠隔地での撮影になるほど陸送に要する時間が問題になります。』

空中写真  東北地方や近畿地方よりも遠方で発生した災害になると、撮影基地から国土地理院本院(つくば市)までの距離は数百kmになることがあります。 そのような場合は、空中写真画像の陸送は半日から1日かかりになることもあります。 また、撮影は数日に渡って行うことが多いですから、そういう場合は何度も陸送が必要になります。 輸送には宅配便を使うこともありますが、少しでも早く空中写真を提供しなければならない初動期の画像は、 飛行場から夜を徹して輸送しなければならず、陸送に要する時間がネックになることがあります。



 災害時の連絡・通信システムに一番求められるもの(要件)は何でしょうか。

『確実な運用性だと思います。』

 どこでどのような被害が発生するかわかりませんから、途中の伝送経路や伝送のための施設がダメージを受ける可能性がありますし、公衆回線では被災地周辺は輻輳などで通信しにくくなることが常で、いざ伝送しようとしてみても繋がらないかもしれないというのでは、災害時の通信手段としては不十分です。
 被災地を写した空中写真の伝送というのは私たちにとっても特殊なことで、災害対応で全体像の把握に役立つ非常に重要な情報ですから、いざというとき使えないかもしれない通信手段に頼るわけにはいきません。
 したがって、どのような被害が生じたとしても確実に運用することができる通信手段が求められるわけです。


 防災から見た「きずな」の特長は何ですか。

『災害時に、地上の被害や輻輳の影響を受けにくい大容量の回線を確保できることです。』

 「きずな」は、衛星を利用した通信回線ですし、あたかも専用線であるかのように他の通信の影響を受けない回線が確保できますから、大規模災害時でも地上施設や回線の被害の影響や輻輳の影響を受けません。 通信しにくい状況であっても、高速な通信手段が確実に確保できることが最大のメリットだと考えています。


 「きずな」を使用して、何を実現したいとお考えですか。

『被災の全体像を捉えた情報提供までの時間の短縮です。』

 災害時に撮影する空中写真は、発生直後に被災地を空から写した画像です。撮影範囲は数百k㎡に及び、規模の大きな災害では被害の全体像を把握するのにきわめて効果が高い情報です。空中写真だけでは場所の把握がしにくいため、最近では空中写真と地図を重ねて瞬時に被害場所や規模が把握できる「簡易オルソ画像」というものも提供しています。いずれも、できるだけ早い段階での災害対策本部などへの情報提供が求められます。
 そのために、少しでも早く画像を入手して加工し、提供するための技術開発をしていますが、数時間~十数時間というスパンでの対応になりますから、「きずな」を利用することにより空中写真画像の入手までの時間が数時間短縮できる効果は大きいのです。


 「きずな」による実験でどんな実証ができていますか。

『空中写真画像の陸送に代わる通信手段としての有効性の確認です。』

 「きずな」による伝送実験では、測量用航空機での緊急撮影が終わって撮影基地に着陸するまでの間に、可搬型VSATを用いて国土地理院の職員だけで通信が確立できるか、実際の通信能力がどの程度か、トータルとして陸送に代わる通信手段として効果があるか、のそれぞれについて実際に実験を行って評価をしました。
 撮影後の空中写真画像の陸送に代わって、撮影前のアンテナの陸送が必要になりますから、実験前は「可搬型」のアンテナとは言っても航空機が着陸するまでの間に運んで組み立てることが、国土地理院の職員だけで行えるだろうかという運用性の部分で不安がありました。それも実際に行ってみて十分可能であることが分かり、実際に「くにかぜ」で撮影した画像を伝送してみて、つくばから数百km遠方に撮影基地を置いた場合の陸送に代わる通信手段としての有効性を確認することができました。


 今後、宇宙を利用した構想はありますか。

『「だいち」の後継衛星を用いて大規模な変化を素早く地図にする技術開発を行っています。』

 国土地理院では、通信衛星の「きずな」以外にも陸域観測衛星「だいち」の画像を使って国内の2万5千分1地形図の修正や、航空機での空中写真撮影が困難な南極地域の地形図修正を行っています。国土地理院では、今後、地図情報をより精度の高いものを含む「電子国土基本図」として再編し、大きな変化については、変化から数カ月以内に地図情報として提供していく体制に移行中です。衛星による地上画像の撮影は、空中写真ほど高解像ではありませんが、撮影頻度が高いことから大きな変化を捉えるのに有効な手段だと考えていて、「だいち」及びその後継となる光学衛星と空中写真をうまく組み合わせて、正確で迅速な地図情報の提供を実現していきたいと考えています。


 「きずな」の使用前と使用後でなにか、変化はありましたか。

『災害時の緊急撮影におけるタイムチャートの流れを見直しています。』

 「きずな」を利用することは、単なる「陸送の置き換え」に留まりません。アンテナをどこに設置し、どこで画像処理をして、どの段階のデータを、どの時点で伝送するかといった、さまざまな選択肢を考えながら、実際の災害対応で効果を発揮できるように体制の見直しを行うことにしています。


 「きずな」での実験成果を踏まえて「きずな」利用の将来性や発展性など展望をお聞かせ下さい。

『アンテナの小型軽量化により、より活用範囲が広がると考えます。』

 可搬型VSATがもう少し小型軽量化すると、操作する職員やアンテナを陸送ではなく測量用航空機に乗せて撮影基地となる飛行場まで輸送することができるようになりますから、利用できる地域や機会が広がるのではないかと思います(たとえば、北海道や南西諸島では、撮影終了までにアンテナが輸送できないため、「きずな」は利用できません)。JAXAのみなさんの今後の取り組みに期待しています。