宇宙航空研究開発機構

突撃!きずな実験レポート 第4回(2009.12.18)

第4回目は筑波大学北脇様に教育面からの「きずな」の活用についてお話を伺いました。

『衛星「きずな」を活用して、大学教育における国際性の日常化を実現!!』
-筑波大学がアジア工科大学(タイ国)、マルチメディア大学(マレーシア国)と遠隔授業-

筑波大学 社会・国際学群長、教授 北脇 信彦
筑波大学
社会・国際学群長、教授
北脇 信彦
北脇 信彦(きたわき のぶひこ)
経歴
 昭和46年東北大学大学院工学研究科修士課程を修了し、日本電信電話公社(NTT)電気通信研究所に入社。昭和56年工学博士(東北大学)。副理事・音声情報研究部長を経て、平成9年から筑波大学教授。平成12年から国際総合学類長、平成19年から現職。主に音声情報処理、通信品質の研究に従事。IEEEフェロー、電子情報通信学会フェロー、日本学術会議連携会員。平成7年RCR電波功績賞郵政大臣表彰。

 筑波大学では留学生を積極的に受け入れる等、国際交流が盛んに行われていますが、そのような活動において遠隔授業はどのような効果がありますか?

『大学教育における国際性の日常化を実現する有効な手段と考えています。』

 わたしたちは、グローバル化と少子化が進展する我が国において、アジアの有力大学が仮想的に結集する教育基盤を形成し、国際間におけるよい意味での競争と協調を進展させ、国際的な視点を持てる人材を育成することを目標としています。
 海外の大学との間で交換留学を行うことは学生に国際性を身につけさせる有効な方法ですが、費用の点や生活上のことなど、それなりに高いハードルがあります。その点、衛星を活用した海外の大学との遠隔授業が定常的に開設されれば、国際性の日常化が実現されます。また、遠隔授業において海外との交流を経験したのちに、交換留学をすればより効果があがると考えられます。


 遠隔教育の実施においてどういった要素(環境、インフラ)が一番必要でしょうか。また、その要素において現状困っていることはありますか?

『技術面では、ビデオ映像や音声、講義スライド等を相互に配信しあえる環境の構築が必要です。ソフト面では、お互いの学制の調整に苦労しています。』

 各大学の教室には、大型スクリーン、プロジェクタ、カメラなどの教室設備を配置し、通信ソフトウェア(MMC)によってビデオ映像や音声の配信を制御しています。技術面で苦労している点といえば、配信システムのパラメータ設定に微妙な点があることです。特に音声系は教室の大きさ、教師の立ち位置やマイクの状態などが品質に微妙に影響します。手慣れた操作者がいると助かります。
 筑波大学では、正規の授業として受講者に単位を配当しています。ここで問題になるのは、大学間における1時限の長さや回数の違いです。また、学期の制度や開設時期が異なります。さらには祝日が違いますし、時差もあります。リアルタイムで正規の共通授業を行うためには、相互の理解と協力が必要です。


 教育から見た「きずな」の特長は何ですか?

『メッシュ型ネットワークの構築が可能、HDTVクラスの高品位映像通信が可能、可搬型地球局及び移動端末を有している、広範なカバー領域を有していることです。』

 「きずな」が搭載しているATM交換機の機能により、筑波大学、アジア工科大学(タイ国)、マルチメディア大学(マレーシア国)間をメッシュ型のネットワークでつなぎ、遅延の影響を受けない遠隔授業を実現しました。
 従来の衛星ネットワークは帯域が狭い(最大2Mbit/s)ため、音声や映像の品質が十分ではありませんでした。今回の遠隔授業では1.2 m級のアンテナを3地点に配置し、受信速度155 Mbit/s、送信速度51 Mbit/sを実現しました。遠隔地から講師の板書を解読するのに十分な映像品質でした。
 衛星ネットワークを用いた遠隔授業にICTを活用したeラーニングを取り入れることによって、更なる質の向上が期待できます。本プロジェクトでは、オープンソースソフトウェアであるMoodleを教育管理システム(LMS)の中心に据えるシステムの開発を進めています。

 「きずな」はKa帯マルチビームアンテナ(MBA)とKa帯アクティブフェイズドアンテナ(APAA)を搭載し、東アジア、東南アジア、アジア太平洋にわたる広範囲の領域をカバーしています。このことにより、海外留学生の渡日前、あるいは日本人学生の海外渡航前の教育や、入学試験の際のインタビューなど、アドホックな場面での利用範囲がさらに広がるでしょう。
 HDTVクラスの映像通信の利用及び可搬型地球局や移動端末を利用した遠隔授業は、これからの課題と考えています。



 「きずな」を利用しての遠隔教育は従来のものとの違いはありますか。また、その変化でどのようなメリットが生まれていますか?

『衛星1ホップの伝送遅延で、各大学の受講者が議論を自由に行うことができる協調(コラボレーション)型遠隔授業を実現したことです。』

 従来の衛星ネットワークは衛星に交換機を搭載していないため、多地点を結んだ時にどこかの地上局が中心となるスター型のネットワークにならざるをえませんでした。この場合、中心局でない局同士の通信は、常に中心局を介した通信になるため、伝送遅延が2倍になってしまいます。このため、一方向性の講義中心の遠隔授業にならざるをえませんでした。
 「きずな」の再生交換中継モードを用いてメッシュ型のネットワークを構築すれば、どの地上局間も1ホップで接続可能になるため、伝送遅延を最小限に抑えることができます。このことによって、従来の講義型の遠隔授業からコラボレーション型の授業が可能になりました。


 「今後の通信衛星にどのようなものを求めますか。また、「きずな」の様な衛星が実用化できれば、教育にどのようなメリットがあると考えていますか?

『教育は継続されることが重要です。「きずな」の実験で終わってしまったのでは意味がありません。ぜひ実用衛星に繋げてください。』

 通信衛星は地上ネットワークが未発達な地域で特に威力を発揮することが可能で、デジタルデバイドの解消に有効な手段です。そのような地域で利用できるようにするために、可搬型・小型・高性能かつ低価格の地上局設備の開発を期待します。また、講師は理系の先生ばかりではありませんので、技術知識がなくても操作できる運用性を望みます。