突撃!きく8実験レポート 第1回(2013.12.16)

第1回目は『きく8号』を利用したGPS津波計からのデータ伝送実験を実施しました高知工業高等専門学校の寺田先生にお話を伺いました。

『GPS津波計の沖合展開に大きく貢献する「きく8号」の衛星通信機能』

高知工業高等専門学校 教授 寺田 幸博
高知工業高等専門学校
教授
寺田 幸博
寺田 幸博(てらだ ゆきひろ)
1972年に大阪大学基礎工学部物性物理工学科を卒業し、日立造船(株)技術研究所に入社。2006年から(独)国立高等専門学校機構高知工業高等専門学校環境都市デザイン工学科教授の現職に就任。博士(工学)。

 先生のこれまでの主な研究分野を教えてください。

『非破壊検査技術の研究とGPS津波計開発』

 40余年にわたる研究生活の中で、前半の20年間は、橋梁、船、圧力容器などの大型構造物の健全性を証明するために放射線や超音波を用いて試験する非破壊検査技術の研究に従事してきました。後半の20年間は、GPS津波計の開発から実用に至る一連の研究に心血を注ぎ、現在も継続中です。


 津波観測ブイ(GPS津波計)の研究を始めようと思われたきっかけはなんでしょうか。

『阪神淡路大震災の被災者としての体験』

 1995年に発生した阪神淡路大震災を被災しました。幸いにして自宅のマンションは倒壊を免れましたが、部屋の中の家具は破壊という言葉そのものでした。マンションが立地していた埋め立て地は、地盤が沈下し、上下水道、ガスのインフラが壊滅状態でした。被災地で1週間の閉じ込め生活の後、約1年間の家族バラバラ避難生活を余儀なくされました。この体験の中で、自分の培ってきた知識と技術を防災に活かすことが出来ないかと考えるようになりました。程なく、東京大学地震研究所の加藤照之先生との出会いがあり、GPS津波計の開発に着手することとなりました。


 GPS津波計が実用されるに至ったのは優れた点があるからと思うのですが、それはどのような点でしょうか。

『日常的に活用され、津波の非常時にも備えることができる機能』

 数十年から数百年の間隔で発生する津波のためだけに装備する津波計は、その維持管理とコスト面で大きい課題を抱えることになります。日常的に活用され、津波の非常時にも備えることができる機能を有するか否かが大事です。GPS津波計は、数秒単位で変化する波浪、数分から数時間の周期をもつ津波、半日単位で繰り返される潮汐に対して同じ精度で観測することが可能です。これは、広い周波数帯域で良好に機能する振動計を開発したことになります。これに着目したのが、(独)港湾空港技術研究所元理事の永井紀彦先生です。港湾や海岸堤防設計の基礎データとなる波浪観測機として日常的に使用し、津波の観測結果を気象庁に送るGPS波浪計の全国展開に尽力されました。東日本大震災時に一定の貢献をすることができた釜石沖などの観測はその成果です。

 GPS波浪計は東日本大震災の際に一定の貢献ができたそうですが、今後はどのような改善が望まれているのでしょうか。

『GPS精密測位方法の改良と衛星通信利用による離岸距離制限の克服』

 2011年3月時点で、東北地方太平洋岸には国土交通省港湾局がGPS波浪計として7基を展開し、リアルタイムに観測データを公開していました。釜石沖のGPS波浪計が6.7mを観測したことなどから、気象庁は大津波警報の高さを最大級の10m以上に引き上げました。このように一定の貢献を果たしましたが、その後大規模な停電によるインターネット寸断のためリアルタイムデータの発信が出来なくなりました。このことと、さらなる沖合い展開が出来る技術開発が喫緊の課題として浮かび上がりました。


 2012年10月から「きく8号」を利用した実験に参加していただいていますが、「きく8号」の利用目的を教えてください。

『GPS津波計による沖合の津波・波浪・潮汐観測データの伝送』

 これまで、GPS津波・波浪・潮位計による観測データは、400MHz帯の地上・海上無線を用いてきました。この方式では、無線の到達限界によってGPS津波計の離岸距離を50km程度に制限されてしまう問題がありました。大型展開アンテナを有する「きく8号」の利用によって、この距離制限の頸木から解き放たれ、日本近海のどの位置にでもGPS津波計を設置することが可能になります。


 GPS波浪計は東日本大震災の際に一定の貢献ができたそうですが、今後はどのような改善が望まれているのでしょうか。

『GPS精密測位方法の改良と衛星通信利用による離岸距離制限の克服』

 2011年3月時点で、東北地方太平洋岸には国土交通省港湾局がGPS波浪計として7基を展開し、リアルタイムに観測データを公開していました。釜石沖のGPS波浪計が6.7mを観測したことなどから、気象庁は大津波警報の高さを最大級の10m以上に引き上げました。このように一定の貢献を果たしましたが、その後大規模な停電によるインターネット寸断のためリアルタイムデータの発信が出来なくなりました。このことと、さらなる沖合い展開が出来る技術開発が喫緊の課題として浮かび上がりました。


 GPS津波計において、「きく8号」を利用する利点はなんでしょうか。また、「きく8号」にどのような印象を持ちましたか。

『海上での無指向性アンテナの利用が可能』

 利点の第1は、四六時中揺れ動き、発電能力の限られたブイ上で利用が可能な無指向性アンテナを利用出来ることです。これは、衛星側に配置された大型アンテナのおかげです。洋上ブイでのデータ伝送の申し子と言っても良い通信衛星です。

 利点の第2は、地震・津波の発生した地域の観測データを被害の無い地域に伝送できることです。これによって、東日本大震災が投げかけた大きな課題であるリアルタイムの観測データの継続的発信を、被災状況下でも可能にできることです。


 通信衛星の利用にあたり、要望や課題はありますか。それらの要望や課題がクリアされることにより、今後の通信衛星の活用にどのようなことが期待できますか。

『防災に資する通信衛星』

 通信速度を少なくとも一桁上げていただきたい。また、今後洋上に配置されるであろう多数のブイとの通信を可能にするための多チャンネル化も必要です。このことの実現は、「きく8号」の基本コンセプトを持ち、これらの機能を改良した防災に資する次世代通信衛星での連続観測が出来るようになることを意味します


 最後に、GPS津波計は全く新しい考え方に基づく開発だそうですが、この開発が実を結びつつある現段階まで到達できたのは、どういう条件がそろっていたからとお考えですか。

『対象とする技術のエクセレンス、継続的開発資金、良き研究仲間』

 当然のことながら、まず、開発の中心となる技術が優れたもので無ければなりません。その見極めは、10の3乗のオーダー(例えばキロからメガへ)以上の技術革新をもたらすものであるかということです。GPS技術はこれが可能です。第2に、文科省科研費を中心に公的資金が継続的に得られたことです。最後に、たくさんの良き研究仲間に恵まれたことです。東京大学地震研究所、東北大学災害科学国際研究所、(独)港湾空港技術研究所、(独)宇宙航空研究開発機構、(独)情報通信研究機構、日立造船(株)の多くの研究者、技術者に参画していただきました。これらが過不足無く与えられた幸運に感謝します。